昭和大学を許さない
こんにちは。高上で講師をしております。うさぎです。いまは医学部の4年生です。なので、受験をしていたのは、4年も前になります。ですが、いまでも受験のことを思い出します。夢の中では、まだ受験生をしていることもあります。
風化されつつある医学部不正入試問題
昨年、医学部の不正入試問題が世間を騒がせた。2019年度入試を経て、この問題は語られることが少なくなった。
医学部不正入試問題は、もとをたどると、東京医科大学と文部科学省の官僚の間に交わされた「国が特別支援をする大学として東京医科大学を認定する見返りとして、息子を東京医科大学に入学させる」という汚職事件だった。
その汚職事件を究明する過程で、どのように不正が行われたかを詳しく調べていたところ、東京医科大学が入試において、女子や浪人生を合格できにくいように点数操作を行っていたことが発覚した。
東京医科大学にこの女子差別、年齢差別が発覚すると、順天堂大学、昭和大学、日本大学など、さまざまな大学で同様な不正が行われていたことが発覚した。
差別だと思っていなかった。
この問題が発覚する以前も、医学部受験生にとっては、上記のような点数操作が行われていることは何度も聞かされている当たり前の話だった。
もちろん、大学側が差別について言及することはなかった。ただ、受験する際に、予備校では、「大学によっては2浪以上であると、この大学は合格が難しくなるので、2浪以上でこの大学を受ける人はそれなりの覚悟を持って受験しましょう」「この大学は女子に対して圧迫面接を行うことがあります。女子は面接試験において答えにくい質問をされることがあるので、事前にしっかりと答えられるようにしておきましょう」といった話をたくさん聞いた。
正直なことを言うと、理不尽だなと思ってはいたが、性別や年齢で差別されることは仕方がないことだと思っていた。私立大学に関しては、どのような基準で学生を選抜しようと大学の自由だし、もし、自分が差別される対象であるならば、合格しにくいならば、受験を避ければいいと。
医学部受験生の最終目標は医者になることである。医学部受験生が受験校を選ぶ際の基準は人にもよるが、まず学費。家庭の経済事情から国公立大学のみしか受験が許されない学生も少なくない。国公立大学は6年間で約400万円程度の学費がかかる。それに比べ、私立大学では6年間でおおよそ3000万(奨学金を使わない場合)。6年間で奨学金を使わずに2500万円を切る大学は私立大学の中でも学費が『安い』大学として知られ、人気があり、偏差値も高かった。その『安い』大学として、受験生に特に人気だったのが、順天堂大学と昭和大学だった。
医学部の学費は一般のサラリーマン家庭が払うにはかなり厳しいものとなる。私の場合もそうだった。親から私立大学で通わせることができるのは、順天堂大学、昭和大学といったところが限度と言われていた(2浪目には、2年も費やしたのだし、ローンを組んででも、医学部にはいってくれればいいといわれ、他の大学も受験させてもらえた)。
昭和大学や順天堂大学が不正を行っていることは知られたことだった。この2校が学生を選んで圧迫面接を行っていることも受験生が受験後に書いたデータからわかっていた。
ただ、受験生は自分が差別される対象だった場合にできることは、受験をあきらめることかほかの受験生よりも高い得点をとるように努力することしかなかった。
大学側を変えることはできない。変わるのは、受験生の側。
いう言ったことが何十年も続いており、医学部受験界隈では当たり前のことだった。
不正の調査は行われた
全国的に国の主導で不正入試の調査が行われた。
自発的に調査を行い、不正を認めた大学もあれば、国に指摘されても否定し続けた大学もあった。
世間からの厳しい目が向けられた2019年度入試はいままでの入試に比べて公平公正に行われたと思います。
9月13日に昭和大学は、不正入試の最終調査を行いその結果を発表しました。
結論から言うと、2018年度までの入試について、「一定の年齢以上(特に22歳以上)の受験生に対する不当な扱い、同窓生の親族への優遇、現役・一浪受験生への加点」が以前までの調査で確認されており、また、新しく「繰上げ合格者が男性に多く、女性は極めて少ない」ということが確認されました。しかしながら、この「繰上げ合格者が男性に多く、女性は極めて少ない」ことに関しては、「偶然の一致」としました。
また、これらのことを踏まえて、2019年度入試は年齢や性別での差別はなかったと発表しました。
公平公正ってなんだろう
今回昭和大学が発表した新しい事実として、「繰り上げ合格となった人数が男子の方が圧倒的に多い」ということです。男子が100人以上繰り上げ合格を受けているのに対し、女子は5人以下。
昭和大学はこれを「偶然の一致」としましたが、受験者の男女比と比べると、「偶然の一致」とは言えないでしょう。
医学部は国公立大学、私立大学いずれでも、1学年100人程度です。
国公立大学は、センター試験の結果でいわゆる『足切り』があり、2次試験を受験できる人数は定員の3倍から6倍程度になります。(大学によっては、「足切り」を行わない大学も存在します。)
私立大学は1次試験(筆記)と2次試験(面接や小論文など)に分かれており、1次試験は100人の定員に対して3000人が受験します。
大学にもよりますが、1次試験の結果で定員の5倍から10倍程度に受験を絞り、2次試験が行われます。
医学部受験においてはこの1次試験を突破することが一番重要です。
医学部の合格発表は定員が100人だとしたら、100人ぴったりしか合格が与えられません。ほかの学部であれば、定員が100人だとしても入学しない可能性も考えて120人に合格が発表されたりもします。
ただ、医学部は定員が文部科学省によって厳密に定められており、学校の判断で勝手に増やすことは許されません。(このせいで、東京医科大学は不正により入学できなかった受験生全員に入学を許可することができませんでした。)
合格発表の際に合格が言い渡される人数は、定員ぴったり。定められた期日内に合格手続きを行なわれなかったり、合格を辞退する人が現れた場合、不足した人数だけ、電話や書簡により、合格を通知するということが医学部では行われています。
ただ、私がいつも思うのが、3000人受けるテストにおいて、そんなに厳格に順位をつけることができるのかということです。
受験生の上位10パーセント程度は圧倒的に筆記試験に秀でているかもしれません。だた、100番と101番に差が必ずしもあるのかは疑問です。
合格不合格のボーダーラインにはたくさんの人がいるでしょう。
筆記試験や小論文、面接試験の総合評価が同じ人がボーダーラインにいることもあるでしょう。
医学部は繰り上げ合格を出すときに、いつもこの最後の一人を決めているのです。同じような成績の受験生がいるならで一人を決めないといけない。
その一人の決め方は、最も大学が受験生に求めるものが現れてくると思います。そのさいに、公正公平な判断ではなく、私情に近い感情によって受験生が選ばれていることは大いにあると思います。
女医という言葉
同じような成績の集団があって、その中で一人だけ合格を選ばないといけない。自分の大学から医師として送り出すべき人物、医師になるべき人物として、昭和大学は『女性よりは男性、年が高いよりは若い、親族に同窓生がいないよりはいる』受験生を考えていたのでしょう。
医師に対して世間も同じようなイメージを抱いているのではないのでしょうか。
私は、「女医の卵」と人に紹介されることがあります。医学部にいて、将来医師になるというと「女医さんだ」と言われます。そして、「ご両親はお医者さんなの」という質問も受けます。
世間が医師という職業に対して「男性、家業」というイメージがあるのだと思います。
たしかにその傾向は強いと思います。
医学部の女子学生の比率は、以前は今とは比べ物にならないくらい低いです。医者に男性が多いことは今に始まったことではありません。でも、それがまかり通っていたのです。
昭和大学の受験生の選抜方法は医師に対するパブリックイメージのそのまま行ってしまっていたにすぎません。
医学部における性別や年齢の差別は、不正入試を行っていた大学だけの責任ではありません。個人名をあげてこの人が悪いといえる問題ではありません。
東京医科大学の汚職事件がなければ、ずっと続いていたことでしょう。
浮かばれない人がたくさんいますが、起きてしまったことは仕方がありません。過去のことをきっちり認め、隠さず謝罪し、これからどうなっていくかを見つづけることが必要です。