センター2020 化学講評

2020(令和2)年センター本試験化学のコメントです。

 問題形式は例年通りで,第1問から第5問までが必答で,第6問(合成高分子)と第7問(天然高分子)が選択問題になっています。教科書を正確に理解し,教科書をベースに演習を積んだ受験生には解きやすい出題であり,センター試験最後の年にふさわしい良問だったといえるでしょう。

では,幾つか問題を見ていきます。

 第1問(問2)は,純物質の状態図に関する出題です。融解曲線の傾きが負であるところから,水の状態図と考えてよいでしょう。この状態図の特徴としては,固体に圧力を加えると融点が下がる(スケート靴のエッジと氷との関係を聞いたことがあるでしょう)ことなので,迷うことなく「(この純物質の)固体の融点は,圧力が高くなると高くなる。」が誤りであることがわかります。

 第1問(問3)は,気体の状態方程式に関する出題です。計算力が要求されます。何を未知数にとるか決め,手早く計算します。きれいな解き方をあれこれ考えるより,手を動かして計算してしまいましょう。

 例えば,「同じ物質量」とあるのでこれをn(mol)と設定し,気体の密度を表す式を導けばよいので,密度は質量÷体積であることから,体積をV[L]とおきます。

 後は,状態方程式 (P/2) V = n R (t + 273)と,密度の式d = ( 2 + 28 ) n / Vから,Vを消去してしまえばよいのです。

 第1問(問5)は,浸透圧に関する出題です。問題文に掲載されている3つの図は,教科書載っているものです。図イは,水が浸透し濃度が薄くなった場合の浸透圧が液面の高さの差で生じる圧力であることを表し,図ウは,元の水溶液の浸透圧は加えた圧力であることを表しています。

 もちろん,実験Ⅲに書かれている「U字管の右側の圧力」は,「加えた圧力」ではなく,「加えた圧力+大気圧」ですから,単純な問題ではありません。条件から「加えた圧力」を2.0×102[Pa]と計算し,浸透圧の式(ファントホッフの法則)を用いると,分子量を求めることができ,計算すると約2.5×104になります。

 第2問(問3)は,両対数グラフを読み解く問題です。見慣れない図かもしれませんが,中和滴定で,縦軸にpHをとり,1,2,3,…14と等間隔に目盛ったグラフを使われていることはお馴染みでしょう。そのグラフの縦軸は,水素イオン濃度そのままで表すと,10-1,10-2,…,10-14と1目盛りごとに,水素イオン濃度が10分の1になっています。縦軸のpHは対数目盛になっているのです。そこを押さえているならば,図2⃣では,濃度が10倍で生成速度が10倍,図3では,濃度が10倍で生成速度が100倍と読み取ることができ,反応速度はv = k [A] [B]2で表されることがわかります。 したがって,AとBの濃度を共に2⃣倍にするとき,反応速度は2×22⃣=8倍になります。

 第3問(問5)は,ニッケル水素電池を題材とする出題です。この問題のポイントは,単位の変換ができるかどうかいう点にあります。つまり,電気量の単位をC(クーロン)からA・h(アンペア時)に変換できますか?という問題なのです。

A(アンペア)=C/s(クーロン毎秒),1(時間)=3600(秒)から,1[A・h]=3600[C],

1[C]=(1/3600)[A・h]となることがわかります。

 10mをcmで表すとき,10[m]の[m]の部分を1[m]=100[cm]で置き換えて,10×1[m]=10×100[cm]=1000[cm]と計算することと同じです。

 この問題では,6.7kgの水酸化ニッケルの充電に必要な電気量は,水酸化ニッケル1モルにつき,電子が1モル必要であることは問題文にあるので,(6.7×103/93)×9.65×104[C]と計算することができ,[C]=(1/3600)[A・h]を代入すると,約1.9×103[A・h]と単位変換できます。

 第4問(問5)は,酢酸エチルの合成に関する出題です。分液漏斗で酢酸エチルが上層に分離されることやアルコールのO原子がエステルになるとの説明は教科書事項でもあり,過去問や模試の同種の出題より素直な問題でありました。

 第5問~第7問は高分子化学に関する出題です。今年度は,正誤問題,計算問題とも基本的な問題が並んでいました。

 計算スピードが遅い受験生は,後半の計算問題を解く時間がなくなったかもしれません。化学の問題を解くうえでも,正確に速く計算するトレーニングを積むことが高得点をとるためには必要です。

 いよいよ,次年度から,大学入試共通テストが始まり,大問のうち幾つかは記述試験のように問題文が長くなったり,実験データを整理するような出題になると思われます。

 ただ,教科書をベースにその上に知識をつくっていくという学習スタイルが最も能率が良いことには変わりありません。教科書全体をすみずみまで(実験,研究,巻末付録も含めて)通読する。基本問題を解きつつ,教科書の内容を正確に記憶する。時には中学の教科書を速読してみる。応用問題を解きながら,大学の内容を考えながら深く掘り下げてみる。大学の入門書を読んでみる。学習段階に応じて千差万別ですが,教科書をベースにすることは同じです。

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