慶応義塾大学法学部合格体験記

1.この記事の概要

 この記事は慶應義塾大学法学部法律学科の合格体験記です。といっても世界史の点数の取り方に注力した、僕なりの世界史攻略法です。合格までの筋道を示すにあたり、まず第2章では入学試験の配点とここ数年間の合格最低点を記し、それらと私の得意・不得意を照合して世界史で何点取りに行こうと考えたか、を受験当時を思い出しつつ書いています。続く第3章では目標点を取るにあたってまず、慶應義塾大学法学部世界史の正解するべき問題を、具体的な問題を参照しつつ載せました。慶応法の世界史のレベルについていくために使用した教材と使い方、及び大まかな勉強時間については第4章をご覧ください。
 なお、この記事を読む上では、私には私の点の取り方があり、あなたにはあなたのやり方があることを覚えておいてください。つまり、この記事は戦略を練るうえでの考え方を参考にしていただくことを趣旨としており、点数の稼ぎ方をそっくりそのまま真似しろと伝えるものではないということです。また、本記事では慶應義塾大学法学部の一般選抜における時間配分と記述式の導入という変更点についてやや触れていますが、あくまで受験を離れてから随分と経った退役軍人の一意見に過ぎないことをご了承ください。それでは本編へ、どうぞ。

2.前提条件・筆者情報

 はじめまして、北海道大学法学部三年の匿名希望です。先月高上講師として採用された際に、慶応の法学部への合格体験がある北大生は珍しいということで、この度合格体験記を書かせていただくこととなりました。

 合格体験記、と言われると流石に私の情報、特に高3時の学力が気になると思います。おおまかに全教科の学力の話をすると、私は2022年度入試で北海道大学法学部の後期入試に合格するとともに慶應義塾大学法学部、早稲田大学の文学部・文科構想学部・法学部にも合格、そして東京大学の文科三類に不合格となりました。所属していた高校は私立の中高一貫校で、こちらのサイトによれば受験当時の四谷大塚での偏差値は54だそうです。高3時の模試では、慶応の法学部は基本的にAかB、共通テスト模試で転んだ時にC判定もとった記憶があります(ただしいわゆる早慶模試のようなものは受けたことがありません)。続いて得意科目は英語と世界史、苦手科目は数学と地理でした。この体験記の性質上得意科目の話だけをすると、英語は高1時点で英検準一級に合格、高2で受けた英検一級には落ちました。世界史は共通テストが95点で、演習や模擬試験でも9割は基本切らなかったと思います。「結局こいつも元々英語と世界史できんのかよ、解散解散」と思った方、ちょっと待ってください。先ほども述べたように、このブログではあなたの状況に合わせて戦略を立てるうえでの参考になることを目的としています。また、次章以降で紹介する入試問題に対する具体的なぶつかり方や勉強の方法に関しては多分どの慶應法学部の受験生にも益をもたらします。

 さて、ここで慶應義塾大学法学部の入試配点です。私の受験当時は三科目400点満点で、英語が200点(80分)・世界史が100点(60分)・論述力が100点(90分)。合格最低点は235~250点ほどで推移しており、合計で65%弱取れればまあ受かるだろうという感触でした(来年度以降の変更については、次章以降で「今ならこうするかな~」という形で少し触れます)。
 私は英語の過去問が70%前後をウロウロしていたので、小論文が受験者平均の50点弱よりやや高く55点取れると考えてみたときに、世界史は60点取れればかなり嬉しい、ということになります。また、世界史の受験者平均点の素点が日本史より低い傾向にあることを踏まえれば、得点調整前では55点取れれば安全圏だろう、とも判断していました。

3.慶應義塾大学世界史の攻略

 そういう訳で、私は世界史で安定して55点、あわよくば60点を取ろうと思い始めるわけです。ここで、私の受験当時60点という数字はどれくらい難しかったのか?という話になってきます。これは、2019年度から2021年度の慶應義塾大学法学部法律学科の世界史の受験者平均点が42-48点で推移していることから読み取れるでしょうか。あるいは、以下のような難問からも分かるかもしれません。

<問題>3 インド産綿織物はヨーロッパでキャラコ(カリカットに由来),日本では江戸時代に桟留縞(その頃 (51)(52) の一部であったサントメに由来)・べんがら縞(ベンガルに由来)などの呼称で流行した。(51)(52)に入る数字をマークしなさい。

02.アッサム   07.カシミール   22.ダマン   24.ディウ   31.パンジャーブ
40.ボンベイ   42.マドラス    43.ラクナウ

https://nix-in-desertis.blog.jp/archives/52501157.html 2024年4月6日閲覧.元の出典は慶應義塾大学法学部の2024年度一般選抜世界史より.

 知るか、って感じです。このブログのために久々に慶應の過去問を見返しましたが、こういう問題って本当に何がしたいのでしょう。着物ファンを取り入れて多様性アピールでしょうか。しかし、同時に次のような面白い難問があることも事実です。

問6 下線部カ(註:海禁政策)に関連して、15世紀の明の対外政策に関する記述として誤っているものを選びなさい。

1. ベトナムの黎朝は明の撃退に成功し、明に朝貢しなかった

2. 明は、内陸部のモンゴルや女真との貿易も朝貢関係に限定した

3. 琉球王国は中継貿易で繁栄した(筆者編集済み)

4. 鄭和の南海大遠征が諸国に朝貢を促した(筆者編集済み)

慶應義塾大学法学部2022年度一般選抜世界史。註は当ブログ筆者。

 この問題を面白いと評価したのは、細かい知識がなくても海禁政策について暗記に留まらない理解をしていればすぐに解けるからです。順に見ていきましょう、3と4は切れますね(簡単なので選択肢を省略しました)。それに加えて教科書レベルで習うこととしては黎朝が15世紀前半に明から独立したことと「海禁」という単語、およびそれに伴う中継貿易で発展した琉球王国の存在でしょうか。

 海禁の字面やのちに清を建国する女真族の記載を考えると2を選びたくなりますが、ちょっと待ってください。そもそも海禁とはなんのために行われていたのか。これは時代によって答えが変わります。では永楽帝下の明代ではどうだったかというと、前期倭寇の活動を抑制させるためです。ではなぜ倭寇が問題視されている状況なのかというと、東アジア地域の交易網が統御されていないからです。この地域の交易網を統御するべきなのは誰か?もちろん、唐以来の冊封体制の後継者である明です。したがって、明は交易網の完全な統制を目指して東アジア中に自身の威厳を示さなくてはならない。では、そのための手段として行われる海禁政策の意味内容は「朝貢貿易への限定」を本質とします。なぜなら朝貢貿易とは、冊封体制の下で中華から夷狄に対して恩恵が下賜されるという、中国王朝の権威を示すための儀礼だからです。すると、2の選択肢は正しいことを言っていると分かります。明の威厳を示すことに海禁の主眼が置かれるならば、民間貿易の禁止を海上に限る理由が無いと分かるからです。あるいは1の選択肢が間違っているということもすぐに言えます。明の視点で書くとすれば自分に歯向かった国にも恩恵を下賜してやることでメンツ(=威厳)が保てますし、黎朝の視点で書くなら、一度撃退したとて南海大遠征をやるようなとんでもない国力の国なんて次は負けます。仲良くしておくのが無難でしょう。

 このように、慶應義塾大学法学部の世界史はだれに解かせる気もない問題がある一方、多くは知識と論理を抑えれば解ける問題で構成されています。そんな試験問題に立ち向かうにあたり、僕が使用した教材と勉強法を次章で述べていきます

4.使用教材と勉強法

 とりあえず使用教材を列挙してみます。

・慶應義塾大学法学部青本

・山川出版詳説世界史

・第一学習社 グローバルワイド最新世界史図表

・河合出版 世界史 最強の一問一答

・駿台文庫 世界史総整理Ⅰ~Ⅲ

・共通テスト(旧センター試験)過去問 

・間違えた問題の整理ノート(以下”ミスノート”とでもしておきます)

 ではここから適宜教材の説明をしつつ勉強方法を書いていきますが、前提として僕はメインとしては東大を目指した勉強をしていこと、及び慶應義塾大学法学部の世界史の配点が当時100点であったことには留意してください。

 慶應義塾大学法学部に集中的な対策をしようとなった時、メインで使用したのは青本と一問一答、そしてミスノートです。河合出版のこの一問一答は、特に第二部が相当に網羅性の高いものとなっており、加えて地図が付いている点が慶応法を受ける上でかなり嬉しいです。また、ミスノートにはこれまでの模試や定期試験、過去問演習で間違えた問題と解説を貼り付けており、自分の弱点を蓄積させたものとなっております。したがって知識のインプットはこの一問一答とミスノートでかなり行い、過去問で間違えた箇所については教科書や世界史総整理で論理関係を確認しつつ、あるいは図表で地理関係を覚えつつ、間違えた理由や補充知識と共にミスノートに書き加えるという勉強方法を採用していました。

 世界史総整理について少し触れると、これは管見の限りでの世界史教材の中で最も情報量が多い教材で、理論的にはこれ全部覚えりゃどの大学の知識問題も余裕で突破できるんだと思います。ただ、あまりにも膨大であり、東大を受けるにあたって役に立ちそうな知識は一部に過ぎないこと、数学と地理が非常に苦手であったために元々得意だった世界史にそこまで時間を費やせない(当時の記録によると受験期は平均して一日90分弱を世界史に使っていたようです。)ことから、知識のインプットは日常的に一問一答に頼っていました。ただ、25年度から慶應義塾大学法学部の世界史が全体の1/3を占めるようになることを考えれば、早慶専願の人たちには結構いい教材かもしれません。実際、図表も交えた時系列形式の進行であるために細かい知識もその位置づけが分かりやすく、体系的な暗記の上では役に立ちそうなのです。話が逸れました。世界史総整理は間違えた知識が世界史という物語の体系の中でどのように登場してくるのかを確認するために使っていたということです。ちなみに教科書や図表も似た役割を果たしていました。慶應義塾大学法学部の過去問を解いたことのある受験生が総整理を手に取れば肌感覚で分かると思うのですが、60点という数字に対してこの教材は要するにオーバーワークなのです。

 話を戻して共通テストの過去問に触れると、これは気分転換の意味合いも兼ねています。正直受験勉強って自分のためにやるのだと分かっていても疲れはするじゃないですか、そのなかで一番楽なのって多分問題演習なんですよね。脳に新しい情報が加わらないので。インプットが増えないならば共通テストの過去問演習には意味がないのではないか、というとそんなことは無くて、慶應義塾大学法学部の世界史で6割を取りたければ多分どの年の共通テスト(センター)も9割を下回ったらダメですから、一つにはそういう基準的な意味合いがあります。もう一つは、これは問題演習全般の意義なのですが、同じ知識を色々な角度から眺められるという意味合いがあります。例えば先ほどの海禁の問題における選択肢1番について考えてみると、一問一答から学べる情報は「黎朝は明の撃退に成功した」くらいでしょう。しかし、あの過去問を解いた皆さんならもう黎朝が明との関係を保ち、明代永楽帝下での冊封体制の強化に貢献したことを知っています。あるいは黎朝のことなんてかなり忘れてしまっていて、そういえば創始者は誰だったっけ、という疑問にぶつかるかもしれません(分からなければ今教科書や資料集で調べて周辺知識と共に頭に入れてください)。このように芋づる式に知識を回収できることが問題演習の意義であり、中でも私がセンター試験の過去問を好んだ理由は東大の論述を完成させるための基礎知識を網羅できること、及び35分程度の短時間で解き切れてしまうことにあります。したがって、例えば早慶を専願とされる方なら少しレベルが高めの問題集に取り組んでみてもいいと思います、というか配点の増加を踏まえれば僕ならそうします。

 最後に、教科書と資料集は必要であるか、という問題について軽く触れておきたいと思います。結論としては、来年度から加わる記述式の問題で何が問われるか分からない以上、論理と地理の確認程度には使った方がいい、と思います。
 この二つの教材が避けられる理由はその冗長性と、それによる暗記への落とし込みにくさでしょう。つまり世界史学習を単純化するには不向きな教材ということです。しかしながらこれらは世界史についての物語的・整序的で大雑把な把握を可能とし、時には暗記の負担を軽減します。

[設問1]世界史に登場した上下関係についての記述として正しいものを選びなさい。

1.インドの身分制度を表す「カースト」という語は、イタリア語の「家柄・血統」を意味する「カスタ」に由来する。

2.中国では漢の武帝が九品中正制度を用いて管理の登用を行ったが、有力な豪族の子弟が選ばれるのが慣例となった。

3.中世西ヨーロッパの荘園制における農奴は、移動の自由がなく、結婚税や死亡税を領主に納める義務を負うなど様々な自由が制約された。

4.中世ヨーロッパでは手工業者たちが同職ギルドを作り、親方と職人はその組合員になった。

慶應義塾大学法学部2023年度一般選抜世界史※一部表記を改めている

  これくらいなら全部暗記でいいんじゃないかというレベルですが、論理的に解ける問題としてちょうどいいので引っ張ってきました。1番について「カスタ」がポルトガル語と知らなくても、植民地政策を行っていた国のうちのいずれかであると推測するのが自然で、イタリア語から来ていると考えるのが不自然です。2番、九品中正は魏です。これはまあいいでしょう。3番が正解なのですが、農奴の特徴をいちいち覚えていなくともコロヌスにその源流があることを踏まえれば移動の自由がないことはすぐに知れてきます。4番も特筆事項はありません。
 慶應義塾大学法学部が記述式を出すと明言していながら過去問の蓄積がない今、この程度の理解を前提とした記述に警戒しておくのは無難な気がします。それを考えると、一問一答でひたすらインプットを詰め込んだり、問題演習を通して都度都度知識を補完したりする以外のやり方として教科書の論理関係を把握しておくことはある程度必要な気がしています。何せ、25年度からは世界史が全体の1/3を占めるのですから。

5.おわりに

 これにて慶應義塾大学法学部の合格体験記を締めくくります。色々と言いましたが、肝心なのは自分が目指すべき点数の設定とそれに見合った教材の選定、及び継続可能な勉強法の発見です。あなたがそれを行う上で、この記事が欠片でも役に立てば幸いです。あなたが納得できる受験結果を得られることを、心よりお祈りします。

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